駆け抜ける世代はもう過ぎ去りました。休むこと、時に立ち止まること、なにより旅をすることは今だからこそ大切なのです。目指すは近くて実は未知なる土地、アジア。Asian Journey、特別だけど手に入りやすい旅、なにより「楽しかった」「行ってよかった」と思える国、土地、ホテル、ご紹介します。第2弾は大人が行くべき香港 「今」だから出逢える 香港の感動と文化をお送りします。
旅の良し悪しを分けるのもホテルといって過言ではありません。選ぶ基準もブランド、立地、コスパと様々ですが定宿があって相応しいのが大人旅。そろそろ「お帰りなさい」と迎えてくれるホテルを持ちませんか? そこで長いお付き合いができるホテルをご紹介します。もちろん、滞在の意義を十分に感じさせてくれる文化醸す極上の宿を4つ厳選しました。
ザ・ペニンシュラアカデミーで学ぶ香港文化
そこで最初にご紹介したいのがザ・ペニンシュラ香港です。今年開業90年を迎えるこの老舗ホテルは「東洋の貴婦人」と称され、香港を語るにおいて欠かせない存在であり「香港を旅するならば、いつか泊まりたい」と多くの旅人が憧れを馳せるホテルです。
◆正面玄関を入ってすぐに迎えてくれるのはガーゴイルに見守られたザ・ロビー
全10カ所、アジア、アメリカ、ヨーロッパにあるザ・ペニンシュラホテルズの旗艦ホテルがザ・ペニンシュラ香港。その伝統と共に神話ともいえる独自のホスピタリティ&サービスを数々生み出してきました。そしてご紹介する第一の理由が、その神話の筆頭ともいえるザ・ペニンシュラアカデミーなのです。
かつてイギリスの統治下であった香港。東洋と西洋の文化が交叉した土地だからこそ育まれた歴史と伝統、そして文化。そのすべてが香港らしく美しかった、あの頃の個性を引き継ぐかのように返還を迎えた1997年に誕生した特別な体験型プログラムです。
◆「香港トラディション・ウェルサーブド:失われつつある伝統美の魅力」より獅子舞 写真提供:ザ・ペニンシュラ香港
現在では、すべてのプロパティで開催されていて、各地の文化、歴史、アート、食、美容、ライフスタイルなどをペニンシュラ独自のプログラムを通して学ぶことができる上に個性的です。たとえばタイ・バンコクならばヘリコプターと特別仕様BMWに乗ってタイの避暑地にあるワイナリーを訪れるツアー、フランス・パリならばロールス・ロイスでベルサイユ宮殿へ。そこで太陽王の所持した美術品他の逸品を歴史専門家がガイドしてくれるなどといった夢のようなプログラムもあります。
しかしなんといってもその発祥の地で入門するザ・ペニンシュラアカデミーは格別です。ましてや、すべての講座を申し込めるのは宿泊者のみに限定されていて、名だたるVIPであろうとペニンシュラに宿泊していなければその扉を開くことすらできないのです。そこで、ぜひ今後はお試しいただきたく、12のメニューの中なら『由緒あるアート:ランタンで道を照らす』をご紹介します。ペニンシュラファンでありながら、まだ体験したことがない方、知らなかった方にもおススメです。
■『由緒あるアート:ランタンで道を照らす』
ザ・ペニンシュラ香港 ザ・ペニンシュラアカデミーより
価格:1名 7,600 香港ドル(サービス税別)
最少催行人数:4名 最大参加者数は8名 所要時間4時間程度、英語にて催行
予約:要予約 3週間前までに申し込みのこと
備考:詳細は担当するマスターによって異なります
お問合せ:ペニンシュラホテルズ・リザベーションセンター
フリーダイヤル:0120 348 288 (日本語対応)
詳細(日本語):https://tokyo.peninsula.com/ja/hong-kong/academy-listing
香港屈指のランタンマスター直伝 ランタン作り体験
旧正月や中秋節、結婚式などのお祝いに不可欠なのがこのランタンです。ユネスコ無形文化遺産に登録された伝統工芸のひとつであり、今の香港でマスターの称号を持つランタン職人はわずか3名しか存在しません。そんな希少な匠たちと出逢えるばかりか、手ほどきを受けてしまえる体験が用意されているのがザ・ペニンシュラアカデミーの優れたポイントのひとつです。
この日、指導をしてくれたのが『雄獅樓美術扎作』を営む許嘉雄さん(39歳)。マスターの中では一番若いながらも、その技術と名声は世界に轟き、ランタンだけでなくオーストラリアの『ゴールデン・ドラゴン博物館』に展示する黄金の龍を監修するなど多才な職人としても広く知られています。こうした竹を使った手仕事は第3回『深水埗から放たれる伝統への挑戦2』の 歐陽秉志さん同様に故人にお供えする紙と竹の奉納細工を作る紙紮職人が創作し、中華圏の伝統と文化を語る上で欠かせない工芸で、この講座では紙紮文化により近づくことができます。
◆許マスターの工房『雄獅樓美術扎作』にて
マスターは結婚式用やお葬式用、さらにアーティスティックなランタンを作る創作性ばかりでなく高い技術力を継続し次世代に伝えていく役割りがあります。昔は冠婚葬祭の場に欠かせなかったはずのランタン。しかし今では中国の工場で量産される時代になりました。竹ではなくワイヤーで組まれ、印刷された文字や柄の貼られた既製品が流通しています。そうした出来合いの品は300香港ドル程度、手作りは1,500~2,000香港ドル程度と価格も価値も大きく違います。しかも近年は春節や獅子舞の時などがせいぜいでランタンの出番も限られるように。需用がなければ当然、職人の数も激減し担い手も減る一方です。このままでは幸福を招き未来を照らす象徴であったランタンの灯が消え兼ねません。
「工場の流れ作業を経て作られる製品には職人の情熱も想いも通っていません。手作りだからこそ時間も手間もかかりますが、作り手によってそれぞれ形が違い、味のあるランタンができあがります。私はこの文化と技術の灯を消さないよう活動しています。海外のみなさんにランタンのことを知って貰う直接の機会になるザ・ペニンシュラアカデミーに大変意義を感じています」
そう、伝統は作り手だけが守るのではありません。私たちが目撃者となること、その素晴らしさを語り、伝えることも手助けになるのです。旅の想い出そのものも文化なのです。
眠るだけの場所ではないホテルを実感
講座はランタンの歴史や作り方をマスターから伺いながら進みます。それにしても、さすがは匠の仕事です。手早く竹を割り、紙と小麦粉、餅粉、ミョウバンを水で練った特製の糊だけを使って骨組みを組み立てていきます。しなやかな指先は舞踊のように美しく鮮やか。しかも竹を結んでいるのは紙なのですがジョイント部分を左右に引っ張ってもちぎれないほど強靭です。
許マスター直伝で作るのはオレンジの皮を剥いたような形をした結婚式に欠かせない六角ランタン。中国では偶数は縁起のいい数として好み幸せを象徴することからもあり、この「六」が開運を招くと喜ばれます。色も赤や黄色、金、銀と華やかで魔を除けます。さらにランタンは「デンルン(Deng Lung)」と発音し、中国語で「息子」という意味を持つDing(丁)と発音が似ていることから結婚後、“息子ができ、我が家が繁栄しますように”という願いが込められています。
ランタン作りの工程は4つあります。
①竹でフレームを作る
②布(または紙)を貼る
③色を付け、文字を描く
④紙やリボン、紐などの飾りをつける
マスター直伝ですから戸惑うことはありません。丁寧に根気よく指導してくれますし、難しい箇所は手伝ってくれます。
4つの正方形の面に筆で色を付けるだけでなく、おめでたい文字を書く風習があり、書道の心得も必要とマスターは話します。
結婚式用は「息子に恵まれて家が繁栄しますように」という意味の「丁財興旺」という言葉を書くのがスタンダード。結婚報告のお墓参りにもランタンを持参し飾るそうです。吉祥のランタンですから願いは限定されません。商売繁盛を願うのであれば「生意興隆」などの言葉もありますし中には自分の名前を書く人もいるそうです。
こうして匠の手ほどきでおこなうランタン作りは古き遠き香港を旅した気分に誘ってくれます。自作のランタンはあなたの未来も照らし、そしてホテルが眠るだけの場所でなかったことをしみじみと実感させてくれます。
ザ・ペニンシュラアカデミーには、まだまだ有意義で素晴らしいプログラムが用意されています。次の滞在に特別な体験はいかがですか? 次回はザ・ペニンシュラ香港の施設と広東料理とXO醤で広く知れ渡るスプリングムーン(嘉麟楼)をご紹介します。
■ザ・ペニンシュラ香港
【The Peninsula Hong Kong】
住所:九龍梳士巴利道
Salisbury Road, Kowloon, Hong Kong, SAR
電話番号:+852 2920 2888(英語対応)
公式URL:https://tokyo.peninsula.com/ja/hong-kong/5-star-luxury-hotel-kowloon
問い合わせ:ペニンシュラホテルズ・リザベーションセンター
フリーダイヤル:0120 348 288 (日本語対応)
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■情報はアイコンをクリックして香港政府観光局とキャセイパシフィックで
協賛(順不同・敬称略):香港政府観光局/キャセイパシフィック
協力(敬称略):ザ・ペニンシュラ香港/雄獅樓美術扎作
写真・文:泉美咲月(Satsuki Izumi)
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