それでも旅をやめない理由 Vol.1 「伝えたいから旅をやめない」フジテレビ チーフビジョナリスト 清水 俊宏さん

それでも旅をやめない理由

旅に生かされる人にお話を伺う『それでも旅をやめない理由』。第1回目はフジテレビの清水俊宏さんにお話しを伺いました。


清水 俊宏さん
1979年生まれ。2002年フジテレビ入社。政治部で小泉首相番など担当。新報道2001ディレクター、選挙特番の総合演出(13年参院選、14年衆院選)、ニュースJAPANプロデューサーなどを経て、2016年からニュースコンテンツプロジェクトリーダーに就任。『ホウドウキョク』『FNN.jp』などでニュースメディア戦略の構築を手掛け、チーフビジョナリストを務めている。

旅のはじまり

めての海外旅行は中学生の時、当時NYに住んでいた叔父を訪ねました。高校時代になるとオランダに引っ越した叔父のもとへ。一浪して大学に合格したとき、オランダ旅行の経験を活かしレールパスを使ってヨーロッパを周遊しました。電車を乗り継いで各国各地をめぐる。夜は列車で移動しながら眠り、ホテルを利用するのはシャワーを浴びるための貧乏旅行です。こうして旅の楽しさを早くから知ることができ、進学後もちょくちょく旅に出るようになりました。

ウイグルの旅で授かった運命の出逢い


 icon-camera-retro ウイグル自治区トルファンにて。ウイグル帽をかぶりながらの旅

からテレビの仕事がしたいにという憧れを抱いていましたが明確な目的があったわけではありません。その確固たる意志が芽生えたのは19歳の時。新疆ウイグル自治区を旅した際のことです。時、横浜からイスタンブールまで飛行機を使わない旅行を計画し、途中でウイグル自治区に立ち寄りました。そこにシルクロードが横切るクチャ県があり、近くの村に住む同い年の青年と仲良くなり、数日でしたが楽しい時間を過ごしました。


 icon-camera-retro ウイグル自治区クチャの市場。食肉がずらりと並ぶ

日は出発という午後、彼からバイクで出かけないかと誘われました。僕をバイクのうしろに乗せて畑の道を走り抜けながら彼は言いました。「この畑は僕たちウイグル族の土地で、僕らで綿花を作っているけど栽培された綿花は、漢族が1キロ、150円という安い値段で買い取っていくんだ」と。村は砂漠の中にあり住民は痩せた土地で綿花栽培を生活の糧にしていました。

業だけではありません。クチャ県は油田やガス田と地下資源が豊富ですが彼らには1円も入ってこないというのです。たまたま途中で囚人の列にすれ違いました。また彼は言いました。「あれは全員ウイグル族で、おそらくなにも悪い事はしていないのに捕まったはずだ。僕たちは漢族と喧嘩をするだけで逮捕される。僕も以前、いざこざを起こし逮捕されずに済んだけど鞭で打たれた傷が今も残っている」とその傷を見せてくれました。

「キミは日本を出て、中国に入り、このウィグルにきてくれた。そしてこの後、カザフスタン、ウズベキスタンなどを通ってトルコまで行こうとしている。でも、僕は日本やアメリカどころか、北京、上海にも行ったことがない。それどころかウルムチ(新疆ウイグル自治区の首都)にも2度しか行ったことがない。でも僕は悲観していないんだ。今日から1日10元ずつ貯金をしようと思う。10年経ってお金が貯まり、こんなおかしな体制が変わっていたら日本に行ってキミに逢いに行くよ。そしたら次はアメリカに行ってみたいんだ」と夢を語ってくれました。

旅で得た志 テレビで伝えたいという想い


 icon-camera-retro ウズベキスタンの市場で休憩。横浜からイスタンブールへ2カ月超えの旅路

の時、僕にどうして彼はそんなことを打ち明けてくれたのかを考えました。僕は外国人で、もしかしたらスパイかもしれないんです。通報されたら彼は反政府派とみなされ逮捕されてあたりまえなんです。しかし彼は危険を覚悟し、自分の境遇を一人でも多くの人に伝えようとした。言わないと変わらない。言っても変えられないのは互いにわかっていました。でもなにか起こそうとすること、それが「伝える」ことなんだと彼の言葉を受けとめて感じました。

国後、僕がこのエピソードを話すことによって新疆ウイグル自治区という土地に興味を持ってもらえるようになりました。興味がない、聞きたくないという人に逢ったことがありません。それは皆が「知りたい」と思い、関心のある物事のひとつだからです。

の経験は、伝えたい人と知りたい人がいて、その仲立ちとなることがメディアであり、テレビということなのだと教えてくれました。同時に知りたいことを映像にし、いろんな人に伝えるのが僕の役目なんだと気づくことができたんです。から僕はウイグル自治区の人々だけでなく世界中の弱者の代弁者になりたい。そのために、なにがなんでもテレビ局に入社しようと決意したんです。

伝えたいから旅をやめない

 icon-camera-retro セルフィーのなかった時代、分身として持参したタコの大ちゃん
 icon-camera-retro 交流のきっかけとなる大使的な存在であり、旅に欠かせない相棒にもなった

職したらもう旅はできないかもしれない、在学中は想像していましたが結局、取材をするための旅の多い人生になりました。カメラマンも連れず、ひとり取材はよくあることですし、国内外問わず、原発周辺など危険を覚悟して旅に出ることも少なくありません。ですが19歳の時の「伝えたい」「テレビの仕事をしたい」と心から欲して願った気持ちのまま、今も仕事を続けています。

に取材するばかりで「おまえは、なにもやってないじゃないか」と揶揄されることもあります。たとえば無医村の医師がいない現状を確かに僕一人の力では打破できませんが、ニュースにして伝えることでなにか対策に繋がるかもしれない。そのための取材は意味のあることだと信じています。

 icon-camera-retro 中国・アモイで最新テクノロジーを取材「お昼寝タイム」などそこで働く人々にも焦点を当てる
 icon-camera-retro 米・オースティンで「空飛ぶタクシー」を取材中、現地で逆取材を受ける

 ライベートと違って、取材で出向く場所は自分では行こうと考えもしなかった土地を訪れることばかりな上、出逢いや発見、驚き、喜びが常にあります。その度に得るものはどれもかけがえがなく、生まれ変わっても「この仕事をする」と言い切れるくらい多く、輝きに溢れています。


 icon-camera-retro ビザや出入国スタンプを見る度、当時の想い出が蘇る。学生時代のパスポートはページが足りなくなって増補した

すから毎日が旅なのだと実感しています。移動する距離に関係なく貴重な体験が増えていくのです。生きている限り僕の旅が続きます。「知りたい」「伝えたい」が溢れてくるのと同様にやめようと思ってもやめられない。僕の人生に欠かせないもの、それが旅なのです。

写真提供(敬称略):清水俊宏


写真・文:泉美咲月(Satsuki Izumi)

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