本を持って旅にでかけよう。心に沁みる言葉、物語、もしかしたら人生を変えるかもしれない一冊をご紹介。
一冊に詰まった森瑤子がいた時代
「夏が、終ろうとしていた。」という書き出しから綴られたデビュー作『情事』と共に38歳で文学界に生まれでた小説家、森瑤子。その15年後の夏の始まり、52歳の短い人生を生き抜いて、逝った。それから26年。100冊を超える本を発表した昭和から平成の、賑やかで少し浮かれた「バブル」はとっくの昔に消え去った。そしてまもなく令和を迎えようとしている今『森瑤子の帽子』が出版された。
本書は2017年11月号から2018年12月号に渡って『小説幻冬』に連載されたものに加筆修正、『ミセス・ブラッキン』の一篇を加えたもので五木寛之、大宅映子、北方謙三、近藤正臣、山田詠美ほか多数の友人、関係者、家族などを著者が丹念に取材したノンフィクションで383ページに及ぶ。
イギリス人の妻、3人の娘の母であった”伊藤雅代”。何者でもない自分にいら立ち、焦燥していた頃、池田満寿夫が『エーゲ海に捧ぐ』で芥川賞を受賞したことに刺激され処女作『情事』を執筆。38歳で第2回すばる文学賞を受賞し”森瑤子”を自ら産み落とした。万年筆と原稿用紙で築き上げた有名女流作家の華麗な人生。その影にはよき妻、よき母、よき主婦であろうとする完璧主義者の姿と、中年へと差し掛かり失っていく若さと女としての飢え、葛藤が常に見え隠れする。
都会的でスタイリッシュな作風、華やかなグラマラスライフ……。森瑤子の残した足跡は、氷河期しか知らない平成に生きた世代には想像もつかない世界観かもしれないが、その未知なる時代にこそ生かされた作家の人生を凝縮して知ることができる。また、且つて彼女に憧れたファンらにとっては、ページをめくるごとに目に飛び込んでくる「亀海昌次」、「橋本シャーン」、そして「本田緑」といった愛着のある名前に懐かしさを覚え、その死と共に胸の奥にしまい込んできた煌びやかな想い出を取りだし、愛でることができる。
本書概要
『森瑤子の帽子』
【目次】
グラマラスな小説家/伊藤家の長女/60年代の青春/母と娘I 長女の場合/二人のヨーコ/バブルとブーム/母と娘II 次女の場合/インナートリップ/社交の華/ミセス・ブラッキン/時分の花/運命の男/母と娘III 三女の場合/ハンサム・ウーマン/「情事」誕生
著者:島﨑今日子
出版社:幻冬舎
写真:おおくぼひさこ
装幀:緒方修一
定価:1,700円+税
仕様:単行本 383ページ/配本日:2019年2月27日/ISBN:978-4344034341
<著者プロフィール>
島﨑今日子(しまざき・きょうこ) 1954年11月、京都市生まれ。ジャーナリスト。ジェンダーをテーマに幅広い分野で執筆活動を行っている。著書に『安井かずみがいた時代』(集英社)、『この国で女であるということ』(筑摩書房)、『〈わたし〉を生きる―女たちの肖像』(紀伊國屋書店)などがある。
Ⓒ森瑤子の帽子 島﨑今日子/幻冬舎
協力:幻冬舎
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