本を持って旅にでかけよう。心に沁みる言葉、物語、もしかしたら人生を変えるかもしれない一冊をご紹介。
五感を揺さぶられる、誰かの記憶をたどる旅へ
『うつくしい繭』が見せてくれるもの。それは私たちが知っているつもりでも知らないアジア。タイの出版社に勤務したのち、東ティモール、フランス、インドネシアなどに滞在した経歴を持つ著者がその目で見て、肌で感じて紡いだ、蜃気楼のような世界観。
東ティモール、ラオス、南インド、日本を舞台とした4篇からなる”旅に出かけたくなるSF短編集”を繋ぐのは戦争、そして記憶。五感を刺激する描写はページを捲るごとに暑く湿ったアジアの風を思い起こさせる。ふわふわと漂う、まるで誰かの夢の断片のようにも思える。幕開けは『苦い花と甘い花』。かつてはポルトガル統治下にあり2002年にインドネシアの占領から独立した共和制国家、東ティモール。独立から6年後、発展を遂げていく街とは裏腹に貧富の差も開いていく中、主人公、アニタは自分や祖母らのファミリーだけに聞こえる<声>をきっかけに大統領に会うことになる……。
そして表題作『うつくしい繭』はラオスへと飛ぶ。緑に囲まれた瀟洒なホテルのような施設。そこには世界中から選ばれた者がコクーン・ルームと呼ばれる記憶の奥深くにアクセスし利用者に最も必要なものを見せてくれるトリートメントを受けるために滞在している。心に深く傷を負った「私」は“レモネード”という名前を与えられ、客室係として仕事をしている……。ここで登場する施設やコクーン・ルームはタイ・ホアヒンにある『チバソム インターナショナル ヘルス リゾート』を連想させるなど、アジアを愛し旅する者ならば自分の体験と物語をすり合わせ、想い出を転がし、次なる旅への想いを馳せる時間をくれる。他2篇のいずれの主人公も、死に極めて近い生に生きているのを感じられ胸の奥をざわつかせる一冊。
本書概要
『うつくしい繭』
【目次】
苦い花と甘い花 <東ティモール>
うつくしい繭 <ラオス>
マグネティック・ジャーニー <南インド>
夏光結晶 <日本 九州・南西諸島>
著者:櫻木 みわ
出版社:講談社
装画:ササキエイコ/装幀:板野公一(welle dcsign)
定価:1600円+税
仕様:A5判、207ページ/配本日:2018年12月8日/ISBN:978-4065139660
<著者プロフィール>
福岡県生まれ。大学卒業後、タイの現地出版社に勤務。日本人向けフリーペーパーの編集長を務める。その後、東ティモール、フランス、インドネシアなどに滞在し、帰国。2016年、「ゲンロン大森望SF創作講座」を受講。第1回ゲンロンSF新人賞の最終候補に選出され、『うつくしい繭』でデビュー。
Ⓒうつくしい繭 櫻木みわ/講談社
協力:講談社
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