連載

【旅する製硯師Ⅱ- 前編】暮らすように泊まるフレイザースイート赤坂東京

旅の様式も変化し、”ホテルステイ”がより身近になりました。
しかも、この夏も残念ながら巣籠推奨。
そこで、『旅する製硯師』2回目は都会へと舞台を移してお届けします。
今回ご紹介するのは『フレイザースイート赤坂東京』。
1泊から滞在することのできるサービスアパートメントです。
毛筆で一筆書きたくなる書斎を求める青栁貴史さんは、どんな体験ができたのでしょうか。


製硯師 都会を旅して、泊まる


(左)フロントに掲げられた組子細工は『フレイザースイート赤坂東京』を中心に東京の地図をイメージして作られている(右)ロビーは吹き抜け、天井へとそびえる棚はギャラリーのよう

東京生まれ・東京育ちの製硯師、青栁貴史さんにとって「東京を旅する」という感覚は新鮮です。今回訪れたのは『フレイザースイート赤坂東京』。世界70都市以上に
140施設、2万3600室を超える施設を運営するフレイザーズ・ホスピタリティが積水ハウスとコラボし、東京に初上陸を果たし、2020年8月にオープンし、ちょうど1年
を迎えます。

フロントとレストラン『MOSS CROSS TOKYO』前は、チェックイン・チェックアウト時など、ソファでくつろいで待つことができるスペースとなっている

場所は、地下鉄の赤坂駅、赤坂見附駅、そして青山一丁目駅からも徒歩圏内。それでいて静かで落ち着いたエリアに位置します。そして、『フレイザースイート赤坂東
京』は、ホテルでもなく、アパートでもない”サービスアパートメント”。青栁さんも初めて宿泊するスタイルです。

「一見、都会的なラグジュアリーホテル。1階にはフロントがあり、観光から日々の暮らしのアシストなど、ゲストのリクエストに応えるコンシェルジュ・サービスもあります。しかも、料理や洗濯も自室でできてしまう設えがいいですね。なにより多くのサービスアパートメントは、1週間単位などの賃貸が多いそうなのですが、ここでは1泊から利用できるので、当然ながらホテルとして使えるのがいいですね。”暮らすよう”に泊まれますし、まさに書斎代わりに借りるのもいいですね」

(左)周囲の遮る高いビルがないため、東京らしい風景が望める(右)スイートタイプのワンベッドルーム エグゼクティブ、自室のリビングルームのように寛げる

客室は224室。インテリアは、日本の伝統美を取り入れた”アーバン・ジャパニーズ・シック”のコンセプトの元、世界的なハイブランドホテルのデザインを数多く手がけるHBA( ハーシュ ・ ベドナー ・ アソシエイツ)が手掛けています。

ゴールドとホワイトを基調にした上質感が漂うベッドルーム

客室の他には、ヨガもできる24時間オープンのフィットネスジム、マッサージチェアを利用できるリトリート、ゴルフシミュレーター、レストラン『MOSS CROSSTOKYO』などが完備されています。

各所に鳥の帰省本能をテーマとした小鳥のモチーフが配されているのも特徴的です。

各フロアの部屋のドア前や案内に施された小鳥のモチーフ

「ゲストを鳥、そして、ここを止まり木に例えるならば、とくに東京に住む人にとって別邸とも言えるのではないでしょうか。マンションのように生活をするだけの場とかビジネスホテルのように、ただ眠るだけの宿とかとは違って、羽を十分に休めることのできる役割りがサービスアパートメントにあるように感じます。

その理由が、部屋には暮らすに十分な家電や家具が揃っている上、迎えてくれるスタッフとアクティビティ施設、さらに行き届いた料理を提供してくれるレストランが付随していることです。ぼく自身、初めて体験するスタイルですが、滞在者のシンプルな目的を一途に満たしてくれる機能を持っている『フレイザースイート赤坂東京』は、止まり木だけの機能におさまらないようにも感じます。言うならば、帰省本能を持つ鳥のように”戻ってきたい場所”ではないでしょうか」

各部屋にはドラム式乾燥機付き洗濯機、キッチンスペースが設けられ、IHコンロ他、調理器具や食器なども揃っているので、その日から生活することができる

居心地がよく、暮らしやすいと実感できる理由のひとつには、国会議事堂、迎賓館赤 坂離宮、皇居といったセキュリティが高い地域であること、加えて文化的な立地にもあります。

「六本木、渋谷、虎ノ門、銀座にも近く、お食事やお買い物にも便利です。とはいえ、こういう時なので、観光や飲食は控えめにして、お部屋でお好みの料理を作って、ゆったりと寛ぎ、周辺を散歩したり、周辺の美術館でアートと親しんでみたりしてはいかがでしょうか。そうした時間が、よりひと時の”暮らし”を豊かにしてくれるはずです」


陶芸に触れる 菊池寛実記念 智美術館


2021年4月17日~8月8日まで開催されている『三輪龍氣生の陶 命蠢く』を鑑賞

そこで訪ねたのが『菊池寛実記念 智美術館』です。タクシーでは7、8分。徒歩ならは23分程度の距離にあり、適度な散策が楽しめます。創設者は陶芸を愛し、現代陶芸のコレクターでもある菊池智氏(1923年~2016年)。2003年にご自身のコレクションや現代陶芸の紹介の場として、この美術館を開館しました。すぐ横は『TheOkura Tokyo』、敷地内には美術館が入るビルと大正時代に建てられた西洋館や蔵、日本庭園があり、都会のど真ん中にいることを忘れてしまいそうです。

登録文化財に指定されている西洋館の前で。現在は展覧会の際などに有料で限定公開されている

「素晴らしい志ですね。作り手がいて、作品は次々に生まれていく一方で、人と繋げる場所が必要です。こうしてお見せし、広げる場を個人で作り上げておいでです。硯作家としては、とても羨ましいことです」

存在も、空間も印象的ですが、この時開催されていた『三輪龍氣生の陶 命蠢く』も記憶に残る迫力です。青栁さんにとって、意義ある出逢いの機会となりました。

美術館の象徴である螺旋階段。ガラス作家・横山尚人氏によるガラスの手すりが手のひらの中で輝き、作り手とコネクトしたような錯覚を覚える

「三輪龍氣生先生は御歳80歳をお迎えになられましたが、その作品が持つ力強い説得力は、いずれも近年作という事実を疑うほどのエネルギーを帯びています。作品は見る者を力強く直視し、また容易に先生の世界観に導きいれてしまう。大家の持つ思想の海でしか得られない、深く得難い対話の時間を頂戴いたしました。学びの機会をいただき心より御礼申し上げたい想いです」

螺旋階段や玄関エントランスには、書家であり墨象と呼ばれる抽象画の作家でもある、篠田桃紅氏の作品などが飾られていて、随時、本物と親しむ時間を与えてくれる

8月以降は、陶芸家・中里隆氏の作陶展も予定されています。ご滞在時にぜひお立ち寄りください。

◆菊池寛実記念 智美術館
住所:東京都港区虎ノ門 4-1-35 西久保ビル
電話番号:03-5733-5131
開館時間 : 11:00~18:00(最終入館は閉館の30分前まで)
休館日 : 月曜日、及び年末年始、展示替期間 詳しくはお問い合わせください
公式URL:https://www.musee-tomo.or.jp/
次回の展覧会予定:中里 隆 ― 陶の旅人展
会期:8月21日~11月28日迄

次回『旅する製硯師』は、『フレイザースイート赤坂東京』の後編、充実した施設や美食のレストランをご紹介します。

青栁貴史(あおやぎ・たかし)
青柳派四代目製硯師/硯作家
1979年、東京都浅草生まれ。浅草で80年続く和漢文房四宝「寶研堂」四代目。
作硯、文化財修復、復刻製作を専門とする。16歳より祖父青柳保男、父青柳彰男に作硯を師事。
20代より中国大陸の作硯家との交流を経て、伝統的硯式の研究、再現製作に従事。
また各地にて硯材の採石、石質調査を行っている。硯文化の熟成を目指し、個展にて作品発表をしている。
社会活動として学校等での講演を通じ、日常生活における毛筆文化の普及に注力。
在宅美術館:https://home-museum.net/
Instagram:https://www.instagram.com/seikenshi_official/

『旅する製硯師』連載一覧





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青栁 貴史

青栁 貴史

旅する製硯師

青柳派四代目製硯師/硯作家 1979年、東京都浅草生まれ。浅草で80年続く和漢文房四宝「寶研堂」四代目。作硯、文化財修復、復刻製作を専門とする。16歳より祖父青柳保男、父青柳彰男に作硯を師事。20代より中国大陸の作硯家との交流を経て、伝統的硯式の研究、再現製作に従事。また各地にて硯材の採石、石質調査を行っている。硯文化の熟成を目指し、個展にて作品発表をしている。社会活動として学校等での講演を通じ、日常生活における毛筆文化の普及に注力。

  1. 【旅する製硯師Ⅲ- 前編】江戸から「今」へと街の歴史と文化を繋ぐ白井屋ホテル

  2. 【旅する製硯師Ⅱ- 後編】フレイザースイート赤坂東京で感じた「凪の時」とは?

  3. 【旅する製硯師Ⅱ- 前編】暮らすように泊まるフレイザースイート赤坂東京

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