東京に泊まるということ。
それは製硯師、青栁貴史さんにとって住み慣れた街で、ふと歩みを止め、佇む時間になったようです。
その時、青栁さんはなにを感じ、どんな言葉をのこしたでしょうか。前回に引き続き『フレイザースイート赤坂東京』をご案内いたします。
製硯師 都会で見つけたオアシス
ホテルステイが旅の中心となっている昨今、開業1周年を迎えた『フレイザースイート赤坂東京』で、初めてのサービスアパートメントに滞在した青栁貴史さん。ここで余暇に”東京に泊まる”という新たな感覚を得ました。
「都会での生活は首都高をドライブするのと似ていると思います。本線合流までの距離は短く、うかうかしていられないというか。合流したら本線速度へ即応力が必要
で、ハンドルを握っている時は、横の景色が見たくても、よそ見はできませんし、ブレーキも踏めませんから。公私ともに暮らしの大半を都内で送っていると、スピードの中で生きることが当たり前になってしまい、忘れがちなことがあります。例えば、夕方、お月さんを見上げて“明日は満月かな“と感じられるようでありたいと思ってはいても、五感は、いつの間にか閉じられ、感じること、思うことすら失念しがちです。だからこそ、時に立ち止まるべきであり、人生の本線にはパーキングエリアが必要なんだと『フレイザースイート赤坂東京』に来て、考えることができました」
では、眠るだけでなく、青栁さんがこのホテルを“パーキングエリア”のように感じたエッセンスをご紹介します。
食のオアシス MOSS CROSS TOKYO
ホテル1階に位置する『MOSS CROSS TOKYO』は、朝食、ランチ、ディナーを提供するダイニングレストランです。ヘッドシェフを務める増山明弘さんは、フランス料理を学び、国内なもちろん、ブルゴーニュからシャンパーニュで修行を重ね、2012年に六本木『CROSS TOKYO』料理長に就任。昨年からは、こちらで腕を振るっています。各地の生産者と直接やり取りし、吟味した食材を仕入れるばかりでなく、自社農園でも栽培するこだわり。お米、塩、発酵調味料なども深く追求し、使い分けた料理が日々テーブルを飾ります。
この日のメニューをご紹介しましょう。
・野菜と出汁とうみがめ
・シェフが恋した9つの食材
・滋養麺 自社農園産のかき揚げ
・八丈島産アカハタのヴァプールまたは和牛ホホ肉のブフ・ブルギニョン
・本日のデザート
お食事は、胃袋を温め、いたわり、食欲を誘う野菜とうみがめを加えた滋味あふれる出汁からスタート。特徴的なのは朝食、ディナー共に提供される料理の松花堂スタイル。“世界の発酵 “をテーマにし、9種類の料理が並びます。いずれも増田シェフのご縁の深い国内の食材ばかり。福島や千葉、埼玉他、ひと口ごとに各地を旅するかのようです。
「シェフは、旬の食材を主役にするのではなく、あえて“ご縁”に重きをおいて料理をしておいでだそうです。舌を楽しませ、お腹を満たしてくれるだけでなくて、生産者さんが愛情と情熱を注いで育てた食材を慈しみながら調理されているのをひと口ごとに感じることができました。都会にありながら、自然を感じさせる落ち着いた空間も居心地が良いですね。ぼくは苔愛好家でもあるので、象徴となるモス(苔)が、あちらこちらに配置されていて癒されました」
MOSS CROSS TOKYO 場所:1階 予約・問い合わせ:03-6441-0781 営業時間:モーニング7:00~10:30 (L.O.10:00) ※要予約/ランチ 11:30~15:00(L.O.14:00)/ ディナー 17:30~20:00 (通常コースL.O.18:00/ショートコーL.O.18:30) 以上、2021年8月現在 ※営業時間は新型コロナウイルスの感染予防に応じて変更になる場合があります。詳しくは直接お問い合わせください |
また、ここでは、長期滞在者も多いことから、施設も充実しています。24時間フィットネス(現在は予約制)、さらに最新のゴルフシミュレータールーム(常時予約制)、マッサージチェアが置かれたリラクゼーションルーム『ザ・リトリート』もあり、静と動をお好みで選べます。
赤坂の“書斎”で得た言葉
「昨夜、日付がかわる頃、眠りにつこうとしたところ、ライトを消しても読書ができるほど、都会の明かりは室内に注がれていました。しばし、赤坂の街から突き出るビルたちに灯る明かりの数をなんとなく数えてみました。こんな夜更けに、まだこんなに多く人々が働いているということにも改めて気づく瞬間でもありました。
そうした都会の夜の風景が、絵のように見える窓辺から眺めているうちに、ふと”喧騒”という言葉が思い浮かびました。日頃、都会の真ん中にいると慣れてしまって忘れていた言葉でもあります。そして、日常から駆け込むように入ったホテルは、喧噪を隔ててくれて、静寂を与えてくれました。それは、ぼくにとって“凪“を感じる時間でした。
実は、ここには香りの記憶がありません。そして、視覚的な記憶も強く残しません。ただ、音は極めて静寂です。これはこれで、このホテルの特色であり、利用したいという理由にも十分なると感じています」
風が止み、高い波が穏やかになる、“凪”。とくに今は、目には見えませんが、嵐が猛威を振るい、荒く激しい波が世界中を覆っています。しかし、ホテルは今日も扉を開き、旅人を静寂へと誘います。嵐をしのぎ、ひと時、旅する気持ちを満たすためにも、ぜひお泊りください。
【info】 まもなく青栁さんの新刊が発売されます。 8月31日発売 『すずりくん 書道具のおはなし』 青栁貴史 作/中川学 絵(あかね書房)ピカピカの書道セットをまえに、わくわくするこどもたち。 そこにあらわれたのは、なんと平安貴族ふうの筆、墨、硯、紙、四つの妖精。 彼らは自分たちを「宝物」だといいだして……。手をかけて作られ、古来より宝物とされてきたと誇る 道具たちをつうじて、文字のなりたちや道具の歴史、アナログの道具だからこそうまれる ゆとりや思いやり、書く喜びを親しみやすく描きます。定価1,430 円 ( 本体1,300 円+ 税) / A4 判/ 34 ページ ISBN978-4-251-09945-7 /小学校低学年から |
青栁貴史(あおやぎ・たかし) 青柳派四代目製硯師/硯作家 東京都浅草生まれ。16歳より祖父栁保男、父青栁彰男に作硯を師事。 20代より中国大陸の作硯家との交流を経て、伝統的硯式の研究、再現製作に従事。 日本、中国各地の石材を用いた作硯、文化財修復、復刻製作を専門とする。 浅草「宝研堂」四代目製硯師。大東文化大学文学部書道学科講師。 著書に「製硯師」(天来書院)「硯の中の地球を歩く」(左右社)。 好きな漢字は「研」、好きな食べ物は「春巻」。 なお、2021年8月31日に絵本『すずりくん』(あかね書房)を上梓。在宅美術館:https://home-museum.net/ Instagram:https://www.instagram.com/seikenshi_official/ |
フレイザースイーツ赤坂東京
住所:東京都港区赤坂5-2-33
公式URL:https://tokyo.frasershospitality.com/
アクセス:東京メトロ赤坂駅(千代田線)徒歩7分/東京メトロ赤坂見附駅(銀座線・丸の内線)徒歩10分/東京メトロ・都営地下鉄 青山一丁目駅(銀座線・半蔵門線・大江戸線)徒歩10分
『旅する製硯師』連載一覧
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